No.006

Natsumi Ohguma大熊 夏実

総合芸術学

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総合芸術学科 大熊夏実さん インタビュー

総合芸術学専攻4回生の大熊夏実さんに普段の研究や専攻などについてお話を伺いました。

普段の研究について教えて下さい。

ルネサンス期にヴェネツィアで活躍していたティツィアーノという画家の作品研究をしています。レオナルド・ダ・ヴィンチやラファエロ、ミケランジェロといったすごい巨匠たちと同時期に活躍した人で、イタリア各地や他国からたくさんの依頼を受けてた。当時もその後も高く評価されてきた画家だけど、日本では前の3人ほど有名じゃないのかな…(笑)

あまり取り上げられることがない?

そうかも。ヴェネツィアで活躍してた作家たちを「ヴェネツィア派」っていって、彼らと対照的に語られるのがラファエロとかミケランジェロに代表される「フィレンツェ・ローマ派」。素描を大事にするフィレンツェ・ローマ派に対して、ヴェネツィア派は「色彩派」とも言われてて。かっちりと下絵をつくりすぎない。ティツィアーノの晩年に至っては下絵から油絵で始めるみたいな(笑)それまでの油絵といえば薄く塗り重ねるグレーズ技法が主流だったけど、ティツィアーノはあえて筆跡を残したり、絵の具を厚く塗ったりしてる。そういう私たちに親しみ深い油絵をやってた人が、ラファエロとかミケランジェロとかと同じ時期にいたんだなっていうのを初めて知ったのが大学1年の時。ヴェネツィア派良いなぁってその時に思いました。

研究はいつから始めるのですか?

研究は3回生から始めます。ヴェネツィア派ではティツィアーノが有名らしいというこを知り、最初にやるにはそういう人の方が良いかなと。画集を見てて、その中で気になった絵がこれです…他の作品とは何かが違うなって感じて。狭い空間づくりをしてるのが、なんとなく違和感で、じゃあなんでわざわざこう描いたのか?っていうのが出発点です。
ルーヴルに所蔵もされてて、絶対いろんな研究がもうされてるんだろうなって思ったけど意外とされてなくて、分からないことも多くて。

資料が少ない?

まず制作年代が分かってないし、最初に誰が依頼したかもはっきりとは分からない。記録として残ってないから、先行研究では様式的な比較から大体の制作年代をいろんな人が推測してる。これはいわゆるキリスト教絵画なんだけど、その主役であるキリストの顔をすごい影で隠しちゃってるっていうのも結構謎で…普通はやらないなって。その理由もはっきり分かってなくて、それもいろんな人が考察を重ねてる。あと何より、キリストの磔刑とかはよくあると思うけど、墓に運んでる途中の場面を描くっていうのも不思議で、結構分からないことはいっぱいあるのにそれについての先行研究があまりない。

どんな風に研究を進めるのですか?

まず、最初に感じた空間の違和感を説明できるように、ティツィアーノの他の作品と比較してこの作品の狭い空間構成が特殊だという検証をしました。
次に、この閉鎖的な空間の理由として、祈りの対象になる祈念画として機能してたんじゃないかという仮説をたてました。祈念画というのは一般的に、見る人が祈りに没入できるように、作品にあまり余分な要素を入れないという特徴があります。この作品の構成もその特徴に当てはまるのではと考えて、さらに調査を進めました。
3年の後期に来歴、作品がどこにあってどう移動したかっていうのをもう一度調べ直しました。結局元の設置場所は分からなかったけど、それぞれの持ち主の所で扱われ方が変化しているのが分かったり、ある程度新しい情報とか発見がありました。4年の前期は「キリストの遺体を運ぶ」という主題に焦点をあてて、同じ主題の作例と比較しました。その中でもラファエロとミケランジェロは同じ主題を描いていて。すごい珍しい主題なのに、有名な3人が皆描いてるっていうのは面白いなと思って、そこの比較から何か読み取れるかなと。

やっぱり作品自体の資料が少ないから外側からという感じですか?

そうそう、外堀を埋める感じ…
ラファエロとミケランジェロはキリストの遺体を運ぶ行為をいかにリアルに描くかっていうことをすごく研究して描いてた。彼らの作品は宗教画ではあるけど、ひとつの芸術作品としてどれだけ完成度の高いものを作るかっていう意識が強い。一方でティツィアーノはキリストの死に対する悲しみを強調する工夫をしていて…それが見る人の祈りを引き出そうとする意図から来ているんじゃないかと考えました。このテーマはまだまだ発展の余地があるので、これからも続けて行きたいと思っています。

他の人もひとつの作品について研究してる人が多いですか?

やり方としてはオーソドックスだと思う。でも総芸はみんなやってることが多種多様で(笑)多分いろんなテーマとかやり方のそれぞれに難しいところがあると思います。古いとこやってると、先行研究も多いから手がかりはたくさんあるけど、何か新しいものを発見するのは大変だし、逆に新しいとこやってる人は自分で切り開いていく力みたいなものが必要で。その作品をどう解釈するかとか批評家みたいな視点が必要になりそう。分野とかやり方、何をテーマにするかによって研究の仕方は全然違うだろうなと思います。総芸の中にいても他の人が何をしてるのか分からない。年に2回の合同発表で初めて知ったり…

普段は研究についてあまり話さない?

近い分野だと話すけどそんなに深くは話さないかも。大変だよね、みたいなことは共有する(笑)だから研究発表の機会で全然違う専門の先生や学生から意見や質問をもらって、自分では思いもしなかったことを指摘してもらえるのは面白いし、ありがたいです。

なぜ総芸に?

地元が岡山なのですが実家の近くに大原美術館があって、関わりが多いというか行きやすい場所で。小さい時に観たモネの《睡蓮》が印象に残ってて、近くで見るのと遠くで見るのとで違って見えることを解説で教えてもらった時に面白いなって、今思えばそれが油画に興味を持つきっかけだと思います。
普通科の中に美術工芸コースがある高校で油絵を専攻して、その時にちゃんと美術に触れたというか…講評もあって、なぜこれを描いたのか、なぜこの構図にしたのかというのを自分で話す場があって、それに対して先生や友達から質問とか指摘を受けたりして…難しいことの方が多かったけど、それでも新しいことを知れば知るほど面白かったし高校でちゃんと美術が好きだなと思って。実技の方を全く考えなかったわけじゃないけど、見ること、作品を見て分析すること、作品の背景について知るっていうこともすごく楽しくて。でもせっかく実技もやってたしと思って、じゃあ1年で実技もできる京芸にって。一番の決め手は学生の人数が少ないから、先生とすごい近い距離で指導してもらえるっていうのがいいなと思いました。

1年では工芸基礎を?

その時はなかなかできないことがしたくて、油絵は家でも描けるし…ロクロ触りたかったから!むずかしかったけど楽しかったな。

げいけんちゃんってどういう存在ですか?

先輩によって生み出されて、代々受け継がれてる。総芸でweb班とカラーズ班っていうのが分かれてて、web班は芸研日誌書いたりレビュー書いたり、情報の発信っていうのをやってます。そこでげいけんちゃん…マスコットキャラクターかな。発信のツールでもありますね。

カラーズとは?

カラーズは展示の企画・運営だけど…結構活動内容は生徒に委ねられてるから、展示やるやらないも自由。昨年は、きちんとリサーチをした上で展示を見に行って、レビューのような形でアウトプットする、っていうのをやって。それを踏まえて、展示を企画する一歩手前のリサーチをもっと掘り下げてみようっていう話になり、今年の前期はそれぞれにリサーチをして、さらにプレゼン、ワークショップという風に発展させて行きました。その中で展示の運営とかに繋げられる要素は出てきて、だから来年、再来年に生かせれば良いかなと思ってます。その年によって、活動内容はバラバラです。

専攻の特徴は?

3つのゼミに分かれてて、それもゼミによって方針が全然違います。基本的には自分が研究する分野に近い専門の先生のゼミにいくって感じかな。でも本当に何でも、自分の興味あることができると思います。
先生に頻繁に相談できるし、私の場合はどうしても外国語をやらないといけないから、授業だけではカバーできない部分を個人的に先生に勉強会を開いてやってもらったりとか。先生にやってもらえるなんて他に大学ではきっと難しいから。それは本当に少人数の強みだなって思います。

お話、ありがとうございました!